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萩原芳樹のブログ
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今日はMBS開局60周年記念特番「7時ですよ~だ」の収録があった。
今をさかのぼること、23年前にスタ-トした番組「4時ですよ~だ」の同窓会的特番である。

ダウンタウンを始め、当時のレギュラ-メンバ-が集合して、懐かしいト-クで盛り上がった。

それにしても久々に会ったが、やはりダウンタウンの二人は凄い。
フリ-ト-クの冴えもさることながら、何年かぶりに私の顔を見るや、松ちゃんは頭を下げて挨拶してくれたし、浜ちゃんは嬉しそうなニコニコ笑顔で挨拶してくれた。

この二人と最初に出会った20年以上も昔のこと、芸人として全く汚れていない素直な素顔を見て、「この子等は、いずれ大物になるぞ」と、感じたのであるが、その頃と全然変わっていない素顔を見れて良かった。

放送は9月2日(木)19:00~20:54分です。
永久保存版として残しておいてもいいかなと思える番組です。
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ぴん子は、東京のTVの仕事で連日のスケジュ-ルが埋まっているらしく、笑楽座には帰って来ない。
ぽん子も、ヘンリ-と同棲を始めて、キャバレ-歌手となり、寄席の舞台に戻る様子もなかった。

「こまどり娘」の笑楽座出番は、そんな訳で休演が続いていた。
らん子が、「ピン(一人)で舞台に立たせてください」と頼めば、それも可能な話ではあったが、一度ドン滑りの経験をしたらん子には、そんな自信もない。

陽の当たらないアパ-トで朝起きて、
「今日どうしようかな」
と、らん子は迷う。
でも、まだ「こまどり娘」は一応出番中になっているので、笑楽座の楽屋へと向かう。
ひょっとして、いなくなったぽん子や、ぴん子も戻って来て舞台を務められるのでは・・・というかすかな望みからであった。

とりあえずは楽屋の隅で一日中小さくなっているしかなかった。
「こまどり娘」の代演をしていた「おまん千吉」のコンビが舞台を終えて楽屋に戻って来た。
「二代目はん、そんな所で一人何してますのや?」
おまんが声をかけて来た。
「ぴん子ちゃんも、ぽん子もいてないというのに、ノコノコ毎日楽屋に現れてからに。そうやって、みんなから同情されようと思うてるのでしょ」
相方の千吉がきつい言葉を発した。
「違うんです」
らん子は、今の自分の気持ちを語ろうとしたが、相手が相手なので、やめることにした。
「こまどり娘」が休演となって、その仕事は全て「おまん千吉」にまわっている。
そんな相手に何を喋っても仕方がないと感じたからであった。

実際、昭和の時代に相方がいなくなって困り切った残された方の行動は、いろいろとあったようである。
らん子のように、本気でいつ戻って来るか知れない相方を楽屋で待つ芸人もいたようだが、逆に取り残された自分に同情を集める為に、自ら悲しそうな演技をしていた芸人もいたらしい。

つまり、コンビやトリオが分裂すると、誰に評が集まるのかということ。
楽屋で「あいつ可哀想やな。次の相方を何とか見つけたらなアカンなぁ」
と、思わせる為に自己演出でそんなことをやっていた芸人もいたようである。
しかし、らん子は違った。
というか、行く場所もなかったのである。

そんな時、突然ぽん子が楽屋に現れた。
全身ズブ濡れの状態であった。
「ぽん子さん!どないしたの、その格好?」
ぽん子は、楽屋に来るなり、泣き崩れた。

ヘンリ-の姿を見つけたので、ジョ-ジは酔った足取りでフラフラと近付いて行った。
「ヘンリ-、久しぶりやな。どうや一緒に呑もうや」
「ジョ-ジ、オマエどこで呑んでるねん」
と、酔ったジョ-ジを軽蔑の目で見て、ベンチで呑んでいるらん子にもチラリと目をやった。

「せっかくやけどな、今から録音の仕事が入ってるんや」
「録音やて?」
「ああ。実は俺、今度結成されたグル-プサウンズで『ブラックタイガ-ス』ちゅうグル-プのリ-ドギタ-にスカウトされてな。これからスタジオや」
「スタジオて?凄いなぁヘンリ-」
羨ましそうな眼差しでジョ-ジはヘンリ-を見た。

昭和43年といえば、空前の「グル-プサウンズブ-ム」が日本列島を包み込んでいた。
テンプタ-ズに、スパイダ-ズ、ジャガ-ズ、カ-ナビ-ツ、ゴ-ルデンカップスと、次々とブラウン管に新しいGSが登場しては観客の若い女性を魅了していた。
中でも、タイガ-スの人気は凄まじかった。

そのタイガ-スだが、デビュ-前は大阪の「ナンバ一番」という音楽喫茶で「ファニ-ズ」という名前で出演していた。
他にも、「オックス」や「ライオンズ」等も大阪からの上京組であった。
つまりヘンリ-が誘われたグル-プも、活動の拠点を東京に移し、本格的に売りだそうということになったらしい。

そんな中に活動場所をあえて大阪にこだわり続けるGSグル-プもいた。
「加賀哲也とリンド&リンダ-ス」である。
彼等はヒット曲を次々と出しながらも大阪で活動を続けたという珍しいGSであった。

ヘンリ-がその場を離れようとすると、らん子が大声で叫んだ。
「ヘンリ-!ぽん子さんを裏切るようなことだけはやめてや。何せぽん子さんはあんたが初めての男やったんやから」
ヘンリ-が無視するように行こうとする。
「聞いてるのか?うちとあんたとはもう終わってるねん。そやからぽん子さんをな・・・」
去って行くヘンリ-の背中に向かって叫び続けたが、ヘンリ-はスタスタと行ってしまった。

「呑もう、ジョ-ジ兄さん」
「そやな」
二人はまたベンチに座り、酒を呷り続けた。
らん子の頬に涙が流れていた。
今日は、久しぶりに大阪シナリオ学校の講義であった。
関西のお笑いにこだわる未来ある若者達の視線を受けて、ついつい熱弁をふるってしまった。
東高西低の今の時代にあって、関西の笑いで今後生きようとしている若者達は全員カッコ良かった。

気分が良くなったので、みんなと別れてから、宇野山さんのお店におじゃました。
毎回同じ話ばかりしている筈なのに、愛する弟子連中が付き合ってくれた。

宇野山さんといえば、6月公演の「キャバレ-哀歌」で、すっかりお世話になったミュ-ジシャンであり、餃子屋の社長である。

ついつい酔っぱらいながらも私は無責任にも、
「AKB48に負けない大阪のユニットを一緒に作りましょうよ!」
と、約束をして、こんな時間に帰宅して来た。
どんなバカバカしいユニットなのかは、いつか実現できそうになった時に改めて報告しますが。

過去を懐かしんで、旧友とゆっくり酒を呑むのも良い。
でも、我々は死に向かって生きている訳ではない。
他人から見れば「オジイのクセに」と、思われようが、かすかなりとも未来に輝きを求めて生きて生きたいものだ。

そんな意味で、宇野山さんのバリタイテイは、やはり凄い!
今夜も未来に向かって生きて行く勇気を、美味しい餃子をいただきつつ頂戴して来た。

宇野山さん65歳。
私、58歳の熱き夜でありました。

ジョ-ジ山中は、そもそもコミックバンド「スカタンボ-イズ」の一員であった。
スカタンボ-イズといえば、あのヘンリ-のいたコミックバンドである。
ヘンリ-が音楽性を重視したコミックバンドにしようとしているのに、ジョ-ジはろくに楽器ができない男であった。

スネア-と呼ばれる、小太鼓とシンバルのみの略式ドラムセットで曲に合わせてリズムを刻んでいるだけで良いという、実に簡単なパ-トを担当していた。
しかし、そのリズムがやたらズレる。
ヘンリ-から何度注意されても、天性のリズム感の悪さはどうしようもなかった。

楽器演奏がダメな上、喋りになると、やたらセリフを忘れる。
そこで妙な間が空くと、「ガオ-!」とか、全く脈略のないギャグを突然叫んでは、舞台を余計にシラケさせていた。

舞台で滑りまくっていた「スカタンボ-イズ」は、当然のごとく解散に追い込まれた。
ヘンリ-はギタ-の腕を買われてキャバレ-のバンドマンになり、他のメンバ-も東京に行く者や廃業した者など、バラバラになった。
しかし、ジョ-ジ山中だけは、何とか笑楽座に芸人として残る道を選んだ。

「俺はろくに楽器も出来んし、その上喋りが苦手な芸人や。そうや!マジシャんになろう!」
ジョ-ジは経験もない手品師になる決意をしたのであった。
「手品の道具の仕入れ先は知ってるし、手品のタネもわかっている」
まさに安易な発想でマジシャンに転向しようとしたのであった。

支配人に、「僕、マジシャンになりますので、出番をください」
と、お願いしてみた。
支配人は、ジョ-ジ山中のことをまるでペットを可愛がるごとく面倒を見ていた。
スカタンボ-イズの舞台で、脈略のないギャグをやってはシラケさせ、そのことをヘンリ-に思いっきり叱られている姿を見ては、一人笑い転げていたのである。

「マジシャンになるて、出番組んでやってもええけど、ギャラは新人の初舞台ランクやで」
「ギャラなんていくらでもええんですわ。舞台にさえ立てたら」
結局超安値のギャラで、ジョ-ジはマジシャンとして笑楽座の舞台に立つことが出来たのである。

ジョ-ジがマジシャンになってすぐのこと、若い女性が「弟子にしてください」と、楽屋を訪ねて来た。
聞けば素人だが、プロのマジシャンに憧れているという。
早速「リンダ」と命名して、一緒に舞台に立たせることにした。
というのも、手品の場合、アシスタントの方にタネを仕込んでいるネタも多い。
素人であれ、アシスタントのいた方がネタのバリエ-ションも増えるからであった。

「コ-ケン」と呼ばれるリンダのアシスタントぶりはすぐさま器用に役目を果たした。
そればかりか、手品を失敗するのはジョ-ジの方ばかりで、数ヶ月後にはジョ-ジの方がアシスタント的な立場に入れ替わってしまった。
舞台が終われば、
「師匠!あれだけ言うたのに、また間違えたやないですか」
と、弟子に叱られるしまつ。

そんなこんなで、ジョ-ジを捨ててリンダがいなくなって日もいずれは来ると、楽屋の噂にもなっていた程である。

「わしは明日から、どないして生きて行ったらええねん!」
湯飲み茶碗の酒を呷りながら、夜空に向かってジョ-ジが叫ぶ。
らん子とて、同じセリフを叫びたい心境だが、ジョ-ジが荒れすぎているので、チビリチビリと酒を呑むしかなかった。

「そうや、いっそ二人でコンビ組もうか?」
「ええっ?ジョ-ジ兄さんと私がですか?」
突然の誘いに、らん子は一瞬驚くが、
「アカンはなぁ、わしもあんたも二人とも喋り苦手やからなぁ」

そんな時、公園の向こうを通りがかるヘンリ-の姿を見つけた。
「ヘンリ-やないかい!」
ジョ-ジは酔った足取りでヘンリ-に近づいて行った。
笑楽座の楽屋口を出たところに小さな公園があった。
その名も通称「ションベン公園」
誰が名付けたのか知らないが、確かに小便臭い公園である。
周辺が飲み屋街なので、この公園で立ち小便をする酔っぱらいが多いからなのであろうか。
楽屋のすぐ裏手にあったので、昼間は笑楽座に出演中の若手コンビが練習場所としてもよく使っている公園である。

初のピン(一人)高座を見事に滑りまくったらん子が、まるで魂が抜けたかのように力なく楽屋から出て来た。
それもその筈である。
同棲していたヘンリ-と別れ、女芸人として生きて行こうとした矢先に、メンバ-は自分から離れて、一人ぼっちになった。
「一人でも舞台は務まる筈」等と慢心してステ-ジに立ってはみたものの、客はスクリとも笑わず、それどころか時間が経つにつれ、客の冷ややかな視線がどんどん鋭くなって行くのが自分でも気付いていた。

「これからどうしよう・・・」
情けなさと不安が全身を支配する。
ろくに明かりもない暗闇のションベン公園を、そんな思いで通り抜けようとしたその時であった。
「ウウッ!ウウウッ!」
と、暗闇の中から、男の嗚咽した声が聞こえて来た。

目をこらしてよく見ると、公園のベンチに男が一升瓶を傍に置いて、湯飲み茶碗で酒を呷っていた。
「ジョ-ジ兄さんやないですか。そんなところで一人何してますの?」
思わずらん子が声をかけた。

その男は「ジョ-ジ山中」という笑楽座に出演しているマジシャンであった。
「何や、誰かと思えば、こまどり娘のメンバ-に捨てられた二代目らん子やないかい。こっち来い。一緒に呑もうやないか。わしも捨てられたばっかりの男や」
「捨てられたて?」
「リンダの奴、とうとうワシの元を離れて行きよった。師匠とは、もうやって行けません・・やと」

情けない男である。
手品のアシスタントであった弟子に捨てられたからと、公園でやけ酒を呑んでいたのである。

らん子は勧められるまま、やけ酒に付き合うことにした。
それにしても、このジョ-ジ山中という男、不思議な程情けない人物であった。



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