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萩原芳樹のブログ
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笑楽座の楽屋口を出たところに小さな公園があった。
その名も通称「ションベン公園」
誰が名付けたのか知らないが、確かに小便臭い公園である。
周辺が飲み屋街なので、この公園で立ち小便をする酔っぱらいが多いからなのであろうか。
楽屋のすぐ裏手にあったので、昼間は笑楽座に出演中の若手コンビが練習場所としてもよく使っている公園である。

初のピン(一人)高座を見事に滑りまくったらん子が、まるで魂が抜けたかのように力なく楽屋から出て来た。
それもその筈である。
同棲していたヘンリ-と別れ、女芸人として生きて行こうとした矢先に、メンバ-は自分から離れて、一人ぼっちになった。
「一人でも舞台は務まる筈」等と慢心してステ-ジに立ってはみたものの、客はスクリとも笑わず、それどころか時間が経つにつれ、客の冷ややかな視線がどんどん鋭くなって行くのが自分でも気付いていた。

「これからどうしよう・・・」
情けなさと不安が全身を支配する。
ろくに明かりもない暗闇のションベン公園を、そんな思いで通り抜けようとしたその時であった。
「ウウッ!ウウウッ!」
と、暗闇の中から、男の嗚咽した声が聞こえて来た。

目をこらしてよく見ると、公園のベンチに男が一升瓶を傍に置いて、湯飲み茶碗で酒を呷っていた。
「ジョ-ジ兄さんやないですか。そんなところで一人何してますの?」
思わずらん子が声をかけた。

その男は「ジョ-ジ山中」という笑楽座に出演しているマジシャンであった。
「何や、誰かと思えば、こまどり娘のメンバ-に捨てられた二代目らん子やないかい。こっち来い。一緒に呑もうやないか。わしも捨てられたばっかりの男や」
「捨てられたて?」
「リンダの奴、とうとうワシの元を離れて行きよった。師匠とは、もうやって行けません・・やと」

情けない男である。
手品のアシスタントであった弟子に捨てられたからと、公園でやけ酒を呑んでいたのである。

らん子は勧められるまま、やけ酒に付き合うことにした。
それにしても、このジョ-ジ山中という男、不思議な程情けない人物であった。

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