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萩原芳樹のブログ
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ジョ-ジ山中は、そもそもコミックバンド「スカタンボ-イズ」の一員であった。
スカタンボ-イズといえば、あのヘンリ-のいたコミックバンドである。
ヘンリ-が音楽性を重視したコミックバンドにしようとしているのに、ジョ-ジはろくに楽器ができない男であった。

スネア-と呼ばれる、小太鼓とシンバルのみの略式ドラムセットで曲に合わせてリズムを刻んでいるだけで良いという、実に簡単なパ-トを担当していた。
しかし、そのリズムがやたらズレる。
ヘンリ-から何度注意されても、天性のリズム感の悪さはどうしようもなかった。

楽器演奏がダメな上、喋りになると、やたらセリフを忘れる。
そこで妙な間が空くと、「ガオ-!」とか、全く脈略のないギャグを突然叫んでは、舞台を余計にシラケさせていた。

舞台で滑りまくっていた「スカタンボ-イズ」は、当然のごとく解散に追い込まれた。
ヘンリ-はギタ-の腕を買われてキャバレ-のバンドマンになり、他のメンバ-も東京に行く者や廃業した者など、バラバラになった。
しかし、ジョ-ジ山中だけは、何とか笑楽座に芸人として残る道を選んだ。

「俺はろくに楽器も出来んし、その上喋りが苦手な芸人や。そうや!マジシャんになろう!」
ジョ-ジは経験もない手品師になる決意をしたのであった。
「手品の道具の仕入れ先は知ってるし、手品のタネもわかっている」
まさに安易な発想でマジシャンに転向しようとしたのであった。

支配人に、「僕、マジシャンになりますので、出番をください」
と、お願いしてみた。
支配人は、ジョ-ジ山中のことをまるでペットを可愛がるごとく面倒を見ていた。
スカタンボ-イズの舞台で、脈略のないギャグをやってはシラケさせ、そのことをヘンリ-に思いっきり叱られている姿を見ては、一人笑い転げていたのである。

「マジシャンになるて、出番組んでやってもええけど、ギャラは新人の初舞台ランクやで」
「ギャラなんていくらでもええんですわ。舞台にさえ立てたら」
結局超安値のギャラで、ジョ-ジはマジシャンとして笑楽座の舞台に立つことが出来たのである。

ジョ-ジがマジシャンになってすぐのこと、若い女性が「弟子にしてください」と、楽屋を訪ねて来た。
聞けば素人だが、プロのマジシャンに憧れているという。
早速「リンダ」と命名して、一緒に舞台に立たせることにした。
というのも、手品の場合、アシスタントの方にタネを仕込んでいるネタも多い。
素人であれ、アシスタントのいた方がネタのバリエ-ションも増えるからであった。

「コ-ケン」と呼ばれるリンダのアシスタントぶりはすぐさま器用に役目を果たした。
そればかりか、手品を失敗するのはジョ-ジの方ばかりで、数ヶ月後にはジョ-ジの方がアシスタント的な立場に入れ替わってしまった。
舞台が終われば、
「師匠!あれだけ言うたのに、また間違えたやないですか」
と、弟子に叱られるしまつ。

そんなこんなで、ジョ-ジを捨ててリンダがいなくなって日もいずれは来ると、楽屋の噂にもなっていた程である。

「わしは明日から、どないして生きて行ったらええねん!」
湯飲み茶碗の酒を呷りながら、夜空に向かってジョ-ジが叫ぶ。
らん子とて、同じセリフを叫びたい心境だが、ジョ-ジが荒れすぎているので、チビリチビリと酒を呑むしかなかった。

「そうや、いっそ二人でコンビ組もうか?」
「ええっ?ジョ-ジ兄さんと私がですか?」
突然の誘いに、らん子は一瞬驚くが、
「アカンはなぁ、わしもあんたも二人とも喋り苦手やからなぁ」

そんな時、公園の向こうを通りがかるヘンリ-の姿を見つけた。
「ヘンリ-やないかい!」
ジョ-ジは酔った足取りでヘンリ-に近づいて行った。
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