萩原芳樹のブログ
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笑楽座の夜出番が近づいているというのに、ぴん子もぽん子もいなくなってしまった。
一人取り残されたらん子は、楽屋で呆然としている。 そんな所に、おまんと千吉がやって来た。 「ぴん子は東京のTVに行ったそうで、ぽん子はキャバレ-歌手になるとか言うて、出て行ったそうやな」 おまんが半笑いの顔で、らん子に語りかけて来た。 「次の出番は、こまどり休演という訳か?」 「仕方ないですわ」 「あんた等も、これでおしまいやな」 おまんが、してやったりの表情になる。 おまんにしてみれば、こまどり娘を何とか潰してやろうという企みが、ここで見事に成功した訳である。 「一人になってしまいましたわ」 らん子が、力なくうつむき加減に呟くと、 「一人ででも、舞台に立ったらええやないですか」 おまんの相方の千吉が、励ますように言った。 「一人でて、私が一人で舞台にですか?」 「そうです。芸人やったら、そうすべきやと思いますわ。今日来てるお客さんの中には、らん子さん、あんた目当てに来てる方もいてると思います。そんなお客さんに背を向けてもよろしいんでっか」 千吉のそんな言葉は、正論のように聞こえた。 でも、らん子には一人で舞台に立つ自信はない。 「軽~い気持ちで舞台に立ったらよろしいですやんか。そうやって、あんたは初めての舞台を見事にこなしたお人や。自信を持ってやりなはれ。失敗しても、何も迷惑かけへん。客が笑わんだけ」 その言葉に、らん子は勇気がわいて来た。 思えば、急遽こまどり娘のメンバ-の一員として舞台に立った時も、何もわからない状態であったが、必死で舞台を務めることで、何とか成功した。 「堂々と、ピンの舞台を務めなはれ!」 そう千吉に励まされて、らん子はすっかりその気になり、一人で舞台に立つことにした。 らん子が、一人っきりで舞台のセンタ-に立つ。 おまんと千吉は、舞台袖で様子を伺っていた。 「どうも!柳流亭らん子で~す!今夜は訳あって、こまどり娘、私一人で舞台を務めさせていただきます」 客は勿論トリオ漫才を期待していた。 そこに、新メンバ-のらん子一人という状況に、ザワつくばかり。 らん子はあせった。 何とか一人のこの舞台をモノにしようとして、早口で喋り立てるが、喋れば喋る程、どんどん墓穴を掘って行った。 「ウケないから、やたらテンションばかり上げてみて、テンポを速めて喋る」 これは、ピン芸と呼ばれる一人舞台では決してやってはならないことであったのだ。 つまり、漫才はシャベクリのかけ合いが妙となる。 コンビのリズムとテンポが早ければ早い程、客を魅了できる。 音楽のラップのようなモノである。 一方、ピン芸と呼ばれる一人舞台は違う。 一人の喋りの中に間合いが大切となって来る。 喋りのテンポも、漫才に比べると、グンと落とさなければならないのである。 喋りの中に緩急を入れて、お客さんとの間合いで喋るのが一人芸、漫談の世界である。 らん子には、そんなことは勿論わからない。 いつもの、こまどり娘の漫才の間合いで、一人喋ろうとするが、やればやる程自滅して行った。 舞台の袖で見ていた千吉が、その様子を見て、ケラケラと笑っていた。 「おまん姉さん、見てやってくださいな。見事に滑ってまっせ」 「千吉、オマエも悪い男やな、ピンで舞台に立って滑ることがわかってて、あんなこと言うたんか」 「そうですとも。昨日や今日出て来た素人芸人は許せませんわ。ホンマの舞台の怖さを教えてやらんと」 らん子に一人で舞台に立つように仕向けたのは、明らかに滑ると計算した千吉の企みであった。 舞台の袖で、滑っているらん子を見て、あざ笑う千吉。 しかし、おまんは笑ってはいなかった。 滑れば滑る程必死になって行くらん子の姿を見守っていたのである。 PR
自分で書いたコント台本や設定は、ほとんど忘れてしまっていることが多い。
そこで、ネットで検索してみると、意外な自分の過去の作品と出会い、笑ってしまうことがある。 「ゆ~たもん勝ち」というMBSの番組があった。 ダウンタウンが、「4時ですよ~だ」で、人気急上昇中の頃、夜7時台に放送していた番組である。 半年で終了してしまった番組ではあったが、内容は濃かった。 ミニコントの連発番組。 そんな中で、松本人志演じる芸能マネ-ジャ-がメインとなったコントを、どうやら私が書いていたらしい。 ネットで、その役名は見て、思わず自分でも笑ってしまったので報告を。 その芸能マネ-ジャ-は、いかにも業界人らしき人物で、口癖が 「じゃあね、後で」 ばかりを連発する人物。 ゆえに名前も、「ジャ-ネ、後出(アト-デ)」であったようだ。 くだらない話だが、懐かしくもあり、そんな過去の自分の発想に思わず笑ってしまったので。 ウ~ン。今後、もっと自分でも忘れている過去の細かいネタを探し出してみようかな。
ぽん子が、そそくさと身支度をして楽屋から出て行こうとする。
「ぽん子さん、どこへ行くんですか?夜の舞台、もうすぐ出番ですよ」 らん子が止めようとしたが、 「ゴメン。うち昨夜ヘンリ-とな・・・つまり男と女の関係になってしもたんや」 「ぽん子さんが?ヘンリ-と?」 「あんたにフラれて、さぞ寂しかったのやろうな。私を抱きたいとホテルに誘われて・・ホンマにゴメンな」 「そんなんええですやん。私とあいつとは、もう終わってるのやし」 「それから、ゴメンついでにもう一つ」 「何ですか?」 「今、ヘンリ-から、今夜キャバレ-で歌わへんかという誘いがあってな。うち歌うて来ようと思うてるねん」 「夜のここの舞台は?」 「ぴん子がいてないのやから、どうせ無理やんか」 「そやけど、舞台は二人ででも・・」 「アカン!ぴん子抜きでは無理やって。あんたとでは漫才のかけ合いも出来んやんか」 そう言い残して、ぽん子は出て行こうとする。 まるで明るい未来に向かっての旅立ちのようにも、らん子は見えた。 「ぽん子さん、嬉しそうですね・・・」 「うちなぁ、ホンマは歌手に憧れてたんよ。15歳の時、田舎の岡山出る時も歌手になりたいと思うてた。そやけど、この顔とこの体型やろ。お笑いに進むしかないと諦めてた」 「けど、歌手というても、場所はキャバレ-ですよ」 「どこでもええやん。傍にはギタ-弾いてるヘンリ-がいてくれることやし」 らん子は、嬉しそうなぽん子の姿を見て、哀さを感じた。 「ヘンリ-の奴、またいい加減なことをして、男に未熟で純粋なぽん子さんを騙して」 別れたヘンリ-のことを考えるだけで腹が立って来た。 一年間ヘンリ-と同棲暮らしをしたらん子は、ヘンリ-の浮気グセに何度も泣かされたのは事実であった。 フラフラと、酔っぱらいが千鳥足で、あちこちの飲み屋に顔を出すような感覚で、ヘンリ-は女をつまみ喰いしていたのである。 「ぽん子さん、ヘンリ-のことなんか信用したらアカン!二人でこまどり娘、続けましょうよ」 去って行くぽん子の背中越しに、そう叫んでみたが無理であった。 「寂しいヘンリ-の気持ちを慰められるのは、私しかいてないんよ」 「ぽん子さん・・・」 「それから私、もうここに戻って来んかもわからんけど」 「戻って来ないて?」 「ぴん子も一人で東京に行ってしもうたし、こまどりは解散・・かな」 「ちょっと待ってぬ解散て、そんなアホな!」 一人楽屋に取り残されたらん子は、泣き崩れた。 キャバレ-歌手から、女芸人の道を選び、ヘンリ-とも別れてスタ-トした芸人暮らしであった。 それが、こんなにいとも簡単に、崩壊してしまう等とは予想もしていなかった出来事である。 目の前が真っ暗になった。 と、その時、おまんがやって来た。 「二代目はん、一人で何してますのや?」 らん子には、もはやすがる相談相手もいない。 そこで、おまんに身の上話を相談したのが大失敗となる訳である。
楽屋に何喰わぬ顔で現れたぴん子。
「ぴん子ちゃん、もう東京に行く時間やで」 と、米沢マネ-ジャ-。 「ええっ?もう行くて、ぴん子あんたは自分一人だけ東京のTVが入ったこと知ってたんやな」 ぽん子が、かなり興奮気味に怒鳴った。 「ああ」 と、ぴん子はそっけない素振り。 「なんでそんな話を今まで黙ってたのや!」 ぽん子の怒りが続く。 「ゴメン、言いそびれてただけのことや」 「そんな大事なこと、言いそびれるて・・・」 楽屋に嫌~な空気が流れた。 新メンバ-に加わったらん子は、比較的冷静にその様子を見ていた。 こまどり娘もトリオ漫才とはいえ、話術やルックス、センスにおいても、全てぴん子が突出していることは理解していた。 舞台の漫才はチ-ムプレ-ではあるが、いざTV番組となると、使うTV局側は容赦ない。 速戦力となる芸人だけを使う。 そんなことも実は把握していたのであった。 昭和40年に始まった「東京お笑いブ-ム」だが、3年の間にブ-ムも陰りを見せ始めていた。 つまり、どんどん新人を抜擢してはスタ-街道を乗せていたのであるが、コマが足りなくなってしまったのである。 新しくTVに登場させる新人コンビがいなくなると、TV局側はコラボに走り始めた。 つまり、コンビを入れ替えては新鮮に見せて、何とか番組を乗り切ろうとしたのであった。 この現象は、それから数年後に関西で起こった「ヤングオ-オ-」ブ-ムや、後の「マンザイブ-ム」でも、やはり同じように「コラボ現象」にてブ-ムは終結してしまっている。 ぴん子が突然全国ネットの番組に呼ばれたのも、「コラボ番組」の一つのコマとして選ばれたのであった。 こまどり娘は、楽器を手にした若い3人の音曲漫才である。 東京のTV局からすると、音曲漫才はすでに時代遅れという判断。 そんな中で、笑いのセンスとルックスだけが買われて、ぴん子一人の東京進出となった訳である。 マネ-ジャ-の米沢が、ぴん子を新幹線に乗せる為に連れて行った。 残されたのは、らん子とぽん子。 「どないするねんな。次の舞台もあるっちゅうのに」 ぽん子が、楽屋にチョロチョロしていたゴキブリを思いっきり踏みつけて言った。 「ぴん子さんが留守の間は、二人で立派に舞台を務めましょ」 らん子は、そう返すしかなかった。 その時、楽屋の電話が鳴った。 らん子が電話に出る。 「もしもし・・・ああ、ぽん子さんですか。ちょっとお待ちください。ぽん子さん、男の人から電話」 「そう」 と、ぽん子は受話器を取ると、つい先程までとは別人のように変わり、 「うん!ええわ。すぐ行く!」 と、何やら上機嫌になっていた。 らん子には、わかっていた。 その電話の主がヘンリ-であることを。 「今の電話、ヘンリ-からやね?」 らん子が思い切って語りかけると、 「わかった?ウフフ・・・」 と、ぽん子は満面の笑顔である。 「崩れて行く」 らん子は直感で感じた。 こまどり娘に加入して、ひたすら女芸人の道を歩み始めた今、全てが崩れて行くような気がしたのであった。
ぽん子が初体験をした翌日、笑楽座の楽屋。
「♪ゆうべのことは、もう言わないで・・」 こまどり娘の弟子の、レモンとイチゴが楽屋を片付けながら、流行りの歌を口ずさんでいた。 そこに現れるぽん子。 「ゆうべのことは言わないで・・か、ウフフ」 と、ニタニタとだらしない笑顔になる。 「どうされたんですか?嬉しそうですね」 弟子のレモンが声をかけると、 「別に・・・」 と、崩れた笑顔のままであった。 「マネ-ジャ-の米沢さんが来てはるよ」 らん子が、マネ-ジャ-の米沢と一緒にやって来た。 ぽん子の崩れた笑顔を見て、 「ぽん子さん、何かええことでもあったんですか?」 と、聞くが、 「ゆうべのことは聞かないで」 と、らん子には意味不明の言葉を発してニタニタしている。 「おはようさん。ぴん子ちゃんはまだか?」 マネ-ジャ-の米沢が楽屋を見渡しながら、少し困り顔で話始めた。 マネ-ジャ-の米沢は、笑楽座に出演している芸能プロダクションのマネ-ジャ-である。 地味なス-ツを常に着ていて、真面目そうな風貌は不動産屋のオバサンにも見える。 年齢は50を過ぎていた。 元々若い頃に一度マネ-ジャ-業をしていたが、結婚・出産を重ねて一度は業界から離れていた。 子供が手のかからない年になったので、再びマネ-ジャ-業に戻ったのである。 米沢から見れば、売れないでくすぶっている若手芸人は、まるで可愛い子供達のようであった。 「実は急に大きなTVの仕事が入ったのや」 米沢の言うには、金曜夜8時からの全国ネットの番組に出演依頼があったらしい。 「うわぁ!凄いやんか、全国ネットのゴ-ルデンタイムに出られるやなんて」 ぽん子は大声で飛び上がって喜んだ。 巨体なので、ボロっちい楽屋が少し揺れた。 昭和40年代前半といえば、東京で「お笑いブ-ム」が巻き起こっていた時代。 三波伸介率いる「てんぷくトリオ」を始め、「トリオスカイライン」「ナンセンストリオ」「トリオザパンチ」「ギャグメッセンジャ-ズ」などのトリオが茶の間の人気者になっていた。 漫才コンビでは、「晴乃チックタック」の超人気コンビを筆頭に、「Wけんじ」「てんやわんや」「一平八平」「千夜一夜」「はるおあきお」「ピ-チクパ-チク」「高丸菊丸」などが毎日のようにTVに出ていた。 ピン芸人では、「東京ぼん太」が人気で「夢もチボ-もないからね」と、風呂敷包みを背負い尻を出して歩くスタイルが爆笑になっていた。 つまり演芸界は東高西低の時代であり、全国ネットで売れていた東京勢に比べると、関西勢は意気消沈していた。 こまどり娘も、最近のTV出演といえば関西のロ-カル番組ばかり。 それも、琵琶湖放送の「笑って琵琶湖」やら、和歌山放送の「爆笑!南部梅干し寄席」などのドロ-カル番組しか出演のチャンスがなかったのである。 そんなこまどり娘に、いきなり全国ネットの番組の話が飛び込んで来たのだから、ぽん子が飛び上がって喜ぶのも当然であった。 しかし、米沢の口から、恐るべき言葉が発せられた。 「それがその・・こまどり娘3人の仕事やないのや」 驚くぽん子とらん子。 全国ネットの出演依頼は、ぴん子一人だけであるという。 米沢の困り顔の原因はそういうことであった。 そんなタイミングに、ぴん子が楽屋にやって来た。 果たしてどうなのだろうか・・・つづく。
ヘンリ-からの手紙を、すっかり自分宛と勘違いしたぽん子は、手紙の内容通り夜10時にホテルパリ-へと向かった。
ラブホテルに入るのは、勿論初めての経験である。 受付の小さな窓口で、 「あのぉ、10時にヘンリ-という人とここで待ち合わせているのですけど」 そう言うと、受付からやたら化粧の派手な婆さんが出て来て、 「ああ、ヘンリ-なら少し遅れるから、先に部屋に入ってて聞いてます」 婆さんに案内されて入った部屋は、和室なのに大きなベッドがあった。 それに部屋の照明が、やたら隠微である。 「どうぞ、ごゆっくり」 婆さんがいなくなったのを確認して、ぽん子は恐る恐るベッドに横たわってみた。 ベッドは大きい上にまん丸であった。 ゴロリと横になり、枕元の何かわからないスイッチを押してみた。 すると「ウィ~ン」という音と共にベッドがグルグル回り始めたのである。 「これは大変!」と、ベッドが回るのを止めようと思うが、どのスイッチで止まるのかもわからない。 むやみやたらにスイッチを押していると、部屋が真っ暗になってしまい、ベッドだけは回り続けている状態になった。 その時であった。 ノックの音がして、ヘンリ-の声がした。 「遅れてすまん。約束通り来てくれたのやな。有り難う」 と、部屋に入って来る。 男性経験のないぽん子は、布団を頭からかぶり小刻みに震えていた。 「何やねん、もう部屋の電気消して、それに回転ベッドまでグルグル回してからに」 暗い部屋の中で、ヘンリ-は、早速ベッドに潜り込む。 「オマエ、暫くの間にえらい太ったな・・・」 ヘンリ-は、まだぽん子であることに気付いていない。 ベッドの中にいたのが、ぽん子と気付いた時はすでに遅かった。 ヘンリ-のミサイルは、すでに発射の準備段階に入ってしまっていたのだ。 ヘンリ-は、遊び人である。 遊び人の男は、用意したミサイルを撃つ相手がたとえ間違っていても容赦なく撃てるように出来ている。 そんな訳で、ぽん子とヘンリ-は結ばれてしまった。 翌日楽屋で、らん子に何と言い訳をしようか等とは、ぽん子の頭の中に全くなかった。 ただ「こんな私にも春が来たわさ!」 そんな思いで一杯だったのである。 |
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