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萩原芳樹のブログ
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東京のTVで活躍している筈のぴん子が突然帰って来たことで、笑楽座の楽屋は騒然とした。
「ぴん子さん、あんた東京のTVのスケジュ-ルで埋まってたのと違うんですか」
らん子に続いて、ぽん子も声をかける。
「そうや!こんなところにいてる場合やないやろ」

ぴん子は、落ち着いた様子で楽屋に座り、辺りを見回してから、ゆっくりと語り始めた。
「東京のテレビ、み~んなやめて来た」
「ええっ!」
らん子ぽん子を始めとして、楽屋に集まった芸人全員が、その言葉に驚いた。

ぴん子が続ける。
「東京のテレビってな、スタジオに客入れてるけど、みんな笑い屋と呼ばれている金もろうてる客ばっかりでな、金もろうてるから何でも笑いよるねん」

つまり、こういうことである。
東京で作る番組には予算がある。
そこで、当時大阪では考えられないことであったが、スタジオ観覧希望として来た客には全て金を払っていたというのである。
映画やドラマには、通行人役が必要なので、エキストラをTV局が発注するプロダクションがあった。
そのプロダクションにエキストラ料金を支払って客として呼び、無理矢理笑わせていたということである。
呼ばれた観客は、「水戸黄門」の通行人をした翌日に、笑い屋としてスタジオに来たりしていたのであった。

「全部ニセモンの笑いや!」
ぴん子が憤慨したように続けた。
「滑ったなと間を外した時でも、無理矢理大声を出して笑いよるねん。私な、そんなニセモンの笑いがつくづく嫌になってな。それに比べたら、ここの笑楽座のお客さんは、ホンマもんのお客さんや。東京のスタジオみたいに金もろうてるんやない。金払うて観に来てくれてるお客さんやから」

「ということは、ぴん子さん、また一緒にやれるんですか?」
そんならん子の言葉を、ぽん子が遮った。
「うちは嫌やで。そうやろう。一人の仕事が入ったからて、勝手にこまどり捨てて東京に行って、今度は東京が気に入らんからと帰って来るやなんて。こまどり娘はな、これかららん子と私の二人で再スタ-トしようて今誓ったばかりなんや。勝手なことをするお人に用はおませんねん」

ぽん子の厳しいセリフに、らん子はどうしようかと言葉も出なかった。
ぴん子もぼん子も、弟子修行から這い上がってキャリアを積んで来た芸人。まだ素人同然のらん子には入って行けない空気感であった。

ぴん子が、突然土下座をした。
「許してください!この通りです!私を元のメンバ-に戻してください!」
常に強がりばかり言っているぴん子が土下座までしたので、さすがにらん子も何とかしなければと、思った。
しかし、ぽん子の対応は厳しかった。

「そんなことしても、アカンもんはアカン!」
土下座しているぴん子の頭上から、ものすごい勢いで叫んだ。
らん子は思った。
考えれば、ぴん子とぽん子は本当のコンビであったのかも知れない。
互いに裏切らない・・・と信じて笑いの修行をして来た。
ところが、ぴん子が一人東京で売れて行く道を選んだことにより、ぽん子の心は乱れたのかも知れない。
ヤケクソのごとく、不幸せになると想像しつつも、ヘンリ-に身を委ねたのかもと思ったのである。

ぴん子が土下座をしたまま、暫く楽屋に緊張と沈黙の時が流れた。
誰も口出しできない。
そんな時であった。
「許したったら、ええやないか!」
全員が、その声の主の方を見ると、なんと「おまん」であった。
こまどり娘の存在を一番に潰そうと企んでいた「おまん」が現れたのであった。
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