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萩原芳樹のブログ
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さて、住む家もなく道ばたで歌っていたヘンリ-を自分の部屋へと招き入れたらん子だが、決して幸せになれた訳ではなかった。

ヘンリ-は、毎日出かけて行くが、行く先は競馬場か競艇場。
仕事をしていないので、最初はらん子から小遣いをもらってはギャンブルをしていたが、さすがにらん子が拒むと、勝手にらん子の財布から金を抜いてはギャンブルに出かけるという日々になっていた。

「毎日毎日ギャンブルばっかりして。あの曲をレコ-ド会社に売り込むとかしたらどうなん」
あの曲とは、ヘンリ-との再会の時聴いた歌である。
「♪私は今日まで生きて来ました・・・」
この素晴らしい詩とメロディに、らん子は惚れ直した訳であった。
「あの曲絶対にヒットすると思うわ」
らん子が勧めるが、ヘンリ-は首を振るだけ。
「そんなことしても、どこも相手にしてくれるかいな」

二人の生活しているアパ-トは四畳半の部屋。
貧しい部屋だが、夢にあふれていると、らん子は信じていた。
「こまどり娘」も、いつかは売れる筈。
そして、ヘンリ-の曲も必ず売れる筈と。

そんなある日のことであった。
「ああ、腹が減った」
と、ヘンリ-が帰って来た。
ちょうど、らん子が一杯のインスタントラ-メンを作って食べようとしていた時のことであった。
「美味しそうやな」
ヘンリ-は、そのラ-メンを食べたそうであった。
「このラ-メンな、あんたが抜いて行った財布の中の小銭集めて買うて来たラ-メンやねん。もうお金、全然ないねん」

二人は一杯のインスタントラ-メンを暫く見つめていた。
どちらも極度の空腹状態になっていた。
しかし、有り金はもうない。
「オマエ食べろや。腹減ってるのやろ?」
「いや、あんたが食べて」
空腹者同士が一杯のインスタントラ-メンを譲りあった。

「そうや、それなら二人で仲良くこの一杯のラ-メン食べよ」
らん子の提案で、一杯のインスタントラ-メンを二人仲良く食べることになった。
最初のうちは良かった。
しかし・・・。
やはり二人とも極度の空腹状態である。
やがては壮絶な奪い合いになってしまったのであった。
麺の一本をも自分の口に入れようとする。
丼を奪うことに成功すれば汁を思いっきり飲む。
それは、野獣二匹が獲物をあさってケンカしているようでもあった。

ラ-メン丼は空になった。
四畳半の部屋に空しい空気が流れた。
夢を追いかけてはみるものの、現実はこんなものである。
らん子は、ラ-メンを茹でた小さな鍋を手に取って眺めていた。
涙が出そうになった。
しかし、らん子は手にしていた鍋を何と頭にかぶってヘンリ-に見せたのであった。

ヘンリ-は鍋をかぶったらん子を見て、ケラケラと笑った。
「ヘンリ-!私とまた暮らすようになってから今初めて笑うたね」
鍋をかぶったらん子は嬉しそうだった。
ヘンリ-が余りにも笑うので、かぶった鍋をグイグイと深くかぶって見せた。
ところが、この行為がこの後取り返しもつかないことになってしまうのであった。
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