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萩原芳樹のブログ
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寄席芸人の専門用語に「出喝采」と「入喝采」という言葉がある。
「出喝采」というのは、芸人が舞台に出た時の喝采であり、「入喝采」とは、逆に舞台を終えて下がる時の喝采。

昭和の時代、寄席芸人さん達は、「出喝采」よりも「入喝采」をもらえるように努めていた。
つまり、最初舞台に出た時はパラパラの拍手であっても、熱演の結果最後にもらえる拍手こそ有り難いということである。

ところが最近はTVの悪影響で「出喝采」ばかり凄くて、ネタを終えた後の「入喝采」の方は、まばらという若手芸人が多いらしい。

笑楽座では、女装漫才の「マリリン・モンロ-」がウケていた。
しかし、あくまで「出喝采」の人気。
ネタが進むにつれて、段々と笑いも小さくなって行く。
元三味線漫才の千吉(マリリン)は、それでも満足げであった。

「ああ忙しい忙しい。これからまたTVの仕事ですわ」
TVの仕事が遠ざかっている「こまどり娘」を尻目にそんな言葉を楽屋で発したりしていた。
「漫才いうのはな、ちゃんとした芸で勝負するもんや。そんなけったいな格好して、笑わしてるんやない、笑われてるだけやということがわからんか」
ぴん子の言葉は相変わらずきつかった。
「漫才はな、服装が派手過ぎたらネタのジャマになるもんなんや」
そう言ってるところへ、らん子がやって来た。
「うちのらん子なんか見てみいな。こうして普段から頭に鍋かぶってやな・・ええっ?らん子!何してんの?」
「何してんのて、鍋かぶって取れんようになったやからしょうがないやんか」

らん子はどうしても鍋が取れなかったらしい。
でも、出番の時間が近づく。
タクシ-を拾おうとしたが、頭に鍋をかぶった女が手を上げてもタクシ-は全て素通りしてしまう。
そこで地下鉄に乗ってやって来たらしいが・・。
「その鍋かぶったまま地下鉄に?」
「恥ずかしかったけど仕方ないやんか」
「この時間地下鉄は満員やったやろ?」
「満員やったけど、私の回りだけガラ空きやった・・」

こうして鍋が頭から取れないまま、らん子は誰にも相談できなかった悩みをぴん子に打ち明けるのであった。
その悩みとは・・・。

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今年も国勢調査の時期が来た。
国勢調査で思い出すのは、現在ア-スマラソン挑戦中の寛平さんのことである。

ずっと前のことではあるが、
「国勢調査があるんやて?えらいこっちゃ」
とばかりに、寛平さんは東京の一人暮らしの部屋のモノを片付け始めたそうだ。
AVから他人に見られてはいけないモノを全て隠したそうな。

「寛平さん、国勢調査って別に部屋の中を調べたりしませんよ」
そう言われた寛平さん。
「そやかて、国が勢いつけて調査するのやろ?もの凄いことちゃうの?」
確かに文字だけ見れば、国が勢いつけての調査。

そんな寛平さん。
今は中国を走っておられます。
前立腺ガンと、ひたすら闘いながら・・。
超人とは、この人の為にある言葉なのでありましょうか。
今年も国勢調査の時期が来た。
国勢調査で思い出すのは、現在ア-スマラソン挑戦中の寛平さんのことである。

ずっと前のことではあるが、
「国勢調査があるんやて?えらいこっちゃ」
とばかりに、寛平さんは東京の一人暮らしの部屋のモノを片付け始めたそうだ。
AVから他人に見られてはいけないモノを全て隠したそうな。

「寛平さん、国勢調査って別に部屋の中を調べたりしませんよ」
そう言われた寛平さん。
「そやかて、国が勢いつけて調査するのやろ?もの凄いことちゃうの?」
確かに文字だけ見れば、国が勢いつけての調査。

そんな寛平さん。
今は中国を走っておられます。
前立腺ガンと、ひたすら闘いながら・・。
超人とは、この人の為にある言葉なのでありましょうか。
らん子のかぶった鍋が、どうあがいても取れないので一息つくことになった。
「これ、何かの足しにしてんか」
おまんは、現金が入っていると思われる封筒をサッと突き出した。
「何ですか?これ」
「あんた、金で今苦労してるんやろ。TVの仕事を断わったことが原因で、こまどり娘は随分仕事を減らされているらしいやないの。そこに来てヘンリ-やろ」

らん子は、おまんの気持ちが涙する程嬉しかったが、そんな金を受け取る訳にも行かない。
「この金、おまん姉さんが、汗水たらして働きはったお金なんでしょう」
「何を言うてんねんな。これはあぶく銭や」
二人の間で、現金の入った封筒のやりとりが続いた。

「あぶく銭て・・。おまん姉さんが今何してはるか、私知ってます。ラブホテルの掃除の仕事をしてはるのでしょ」
「ええっ?知ってたんかいな」
おまんは罰悪そうに話始めた。

相方の千吉に捨てられたおまんは、ピン芸人になろうとも考えたが、自信もなかった。
仕方なく芸人以外の仕事を、生活の為にとりあえず始めることにした。
しかし、居酒屋などで働けば、「オマエ芸人ちゃうか」と、顔が指したりもする。
そこで、人に顔を見られない仕事という訳で、ラブホテルの掃除の仕事をしていたのであった。
おまんは、そんなにTVに出ていた訳でもないので、めったに顔が指すこともないのだが、プライドの高いおまんとしての選択であったのだろう。

「そやから、汗して働いた姉さんの大切なお金をいただく訳にはいきません」
らん子が強引に突き返す。
「この金は、あぶく銭やと言うてるやろ。掃除以外で儲けた金なんや」
「ホンマですか?」

おまんの言うには、密室で男女の行為をしているところを、こっそりと盗み撮りして、その写真を売って金にしたらしい。

「ウソですわ。第一カメラなんて高級なもん、姉さん持ってはらへんでしょ」
「持ってるよ、ホラ」
おまんがカメラを出して見せる。
「それオモチャちゃいます?」
「何を言うてんねんな、高級カメラやで。わからんか。そない疑うのやったら二人で一枚撮っとこか」

そんな訳で、初代らん子と二代目らん子が四畳半の部屋で記念写真を撮ることになった。
でも、らん子の頭には鍋をかぶっている状態であったが・・・。

芸人を廃業して、いざ仕事につこうとする時の大きな壁が「顔を指す」ということである。
現役当時は顔も指さないのに、いざ辞めて社会復帰した時に何故か顔が指してしまい、社会復帰もままならぬ・・という芸人さんも多かったようだ。





らん子は、自分が鍋を頭にかぶったことでヘンリ-が初めて笑ってくれたので嬉しかった。
しかし、ヘンリ-が出て行った後、頭にかぶった鍋を取ろうとしたが、取れなくなってしまったのである。
「エイッ!」と、力を入れても頭の鍋は取れない。

確かにヘンリ-を笑わせようとして、グイグイと深く鍋をかぶった。
だが、それが取れなくなるまでとは予想もしていなかった。
無理やり鍋を取ろうとすればする程、鍋は頭と益々一体化する始末である。
小さな穴に指を突っ込んでしまった人が抜けなくなる時、無理に力を入れて抜こうとすればする程抜けなくなる。
それと同じ状態になっていた。

らん子が必死に頭の鍋を取ろうとしていた時であった。
ノックの音がした。
「ハ-イ、どなた?」
「失礼させてもらうで」
訪問客は、おまんであった。
「何してんの?」
鍋をかぶった姿に当然おまんは驚く。

「これかぶったら取れんようになってしもうたんですわ」
「アホの子供やないのやから。鍋かぶって取れんて。あんたアホか?」
「アホです・・。けど、鍋かぶったら、ヘンリ-初めて笑うてくれたんです」
「ホンマにアホやなぁ。宿なしのヘンリ-連れて来て面倒見てるやなんて」
「それより、おまん姉さん突然どうされたのですか?」
「話は後や。それよりその頭の鍋を取らんことには」

おまんは千吉から、コンビ解消を告げられて行方知れずになったままであった。
そんなおまんが何故突然らん子の部屋に現れたのか。
そんな話よりも先に、らん子の頭の鍋を取る作業が始まった。

まずは力一杯に頭の鍋を取ろうとしたが無理であった。
「あんた、すりこぎか何かないか」
「ハイ、そこに」
おまんは、すりこぎを手にすると、らん子の頭の鍋の周辺をすりこぎで叩き始めた。
「痛い!何しはるんですか」
「海苔の瓶詰めでもな、こうやって叩いてから回すと開いたりするもんや」
「そんなアホな」
「そうや、あんた今から銭湯に行ってな、頭からお湯につかるんや。瓶詰めでも膨張させたらフタ開いたりするから」
「おまん姉さん、この鍋かぶったまま銭湯に行くんですか」

おまんが何とか鍋を取ろうと協力してはみるが無駄であったようだ。
「それよりも、おまん姉さんが私を訪ねて来てくださるて、どういうことなんですか?」
鍋をかぶった状態で、らん子はおまんのその後の身の上話を聞かせてもらうことになったのである。

さて、住む家もなく道ばたで歌っていたヘンリ-を自分の部屋へと招き入れたらん子だが、決して幸せになれた訳ではなかった。

ヘンリ-は、毎日出かけて行くが、行く先は競馬場か競艇場。
仕事をしていないので、最初はらん子から小遣いをもらってはギャンブルをしていたが、さすがにらん子が拒むと、勝手にらん子の財布から金を抜いてはギャンブルに出かけるという日々になっていた。

「毎日毎日ギャンブルばっかりして。あの曲をレコ-ド会社に売り込むとかしたらどうなん」
あの曲とは、ヘンリ-との再会の時聴いた歌である。
「♪私は今日まで生きて来ました・・・」
この素晴らしい詩とメロディに、らん子は惚れ直した訳であった。
「あの曲絶対にヒットすると思うわ」
らん子が勧めるが、ヘンリ-は首を振るだけ。
「そんなことしても、どこも相手にしてくれるかいな」

二人の生活しているアパ-トは四畳半の部屋。
貧しい部屋だが、夢にあふれていると、らん子は信じていた。
「こまどり娘」も、いつかは売れる筈。
そして、ヘンリ-の曲も必ず売れる筈と。

そんなある日のことであった。
「ああ、腹が減った」
と、ヘンリ-が帰って来た。
ちょうど、らん子が一杯のインスタントラ-メンを作って食べようとしていた時のことであった。
「美味しそうやな」
ヘンリ-は、そのラ-メンを食べたそうであった。
「このラ-メンな、あんたが抜いて行った財布の中の小銭集めて買うて来たラ-メンやねん。もうお金、全然ないねん」

二人は一杯のインスタントラ-メンを暫く見つめていた。
どちらも極度の空腹状態になっていた。
しかし、有り金はもうない。
「オマエ食べろや。腹減ってるのやろ?」
「いや、あんたが食べて」
空腹者同士が一杯のインスタントラ-メンを譲りあった。

「そうや、それなら二人で仲良くこの一杯のラ-メン食べよ」
らん子の提案で、一杯のインスタントラ-メンを二人仲良く食べることになった。
最初のうちは良かった。
しかし・・・。
やはり二人とも極度の空腹状態である。
やがては壮絶な奪い合いになってしまったのであった。
麺の一本をも自分の口に入れようとする。
丼を奪うことに成功すれば汁を思いっきり飲む。
それは、野獣二匹が獲物をあさってケンカしているようでもあった。

ラ-メン丼は空になった。
四畳半の部屋に空しい空気が流れた。
夢を追いかけてはみるものの、現実はこんなものである。
らん子は、ラ-メンを茹でた小さな鍋を手に取って眺めていた。
涙が出そうになった。
しかし、らん子は手にしていた鍋を何と頭にかぶってヘンリ-に見せたのであった。

ヘンリ-は鍋をかぶったらん子を見て、ケラケラと笑った。
「ヘンリ-!私とまた暮らすようになってから今初めて笑うたね」
鍋をかぶったらん子は嬉しそうだった。
ヘンリ-が余りにも笑うので、かぶった鍋をグイグイと深くかぶって見せた。
ところが、この行為がこの後取り返しもつかないことになってしまうのであった。


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