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萩原芳樹のブログ
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らん子のかぶった鍋が、どうあがいても取れないので一息つくことになった。
「これ、何かの足しにしてんか」
おまんは、現金が入っていると思われる封筒をサッと突き出した。
「何ですか?これ」
「あんた、金で今苦労してるんやろ。TVの仕事を断わったことが原因で、こまどり娘は随分仕事を減らされているらしいやないの。そこに来てヘンリ-やろ」

らん子は、おまんの気持ちが涙する程嬉しかったが、そんな金を受け取る訳にも行かない。
「この金、おまん姉さんが、汗水たらして働きはったお金なんでしょう」
「何を言うてんねんな。これはあぶく銭や」
二人の間で、現金の入った封筒のやりとりが続いた。

「あぶく銭て・・。おまん姉さんが今何してはるか、私知ってます。ラブホテルの掃除の仕事をしてはるのでしょ」
「ええっ?知ってたんかいな」
おまんは罰悪そうに話始めた。

相方の千吉に捨てられたおまんは、ピン芸人になろうとも考えたが、自信もなかった。
仕方なく芸人以外の仕事を、生活の為にとりあえず始めることにした。
しかし、居酒屋などで働けば、「オマエ芸人ちゃうか」と、顔が指したりもする。
そこで、人に顔を見られない仕事という訳で、ラブホテルの掃除の仕事をしていたのであった。
おまんは、そんなにTVに出ていた訳でもないので、めったに顔が指すこともないのだが、プライドの高いおまんとしての選択であったのだろう。

「そやから、汗して働いた姉さんの大切なお金をいただく訳にはいきません」
らん子が強引に突き返す。
「この金は、あぶく銭やと言うてるやろ。掃除以外で儲けた金なんや」
「ホンマですか?」

おまんの言うには、密室で男女の行為をしているところを、こっそりと盗み撮りして、その写真を売って金にしたらしい。

「ウソですわ。第一カメラなんて高級なもん、姉さん持ってはらへんでしょ」
「持ってるよ、ホラ」
おまんがカメラを出して見せる。
「それオモチャちゃいます?」
「何を言うてんねんな、高級カメラやで。わからんか。そない疑うのやったら二人で一枚撮っとこか」

そんな訳で、初代らん子と二代目らん子が四畳半の部屋で記念写真を撮ることになった。
でも、らん子の頭には鍋をかぶっている状態であったが・・・。

芸人を廃業して、いざ仕事につこうとする時の大きな壁が「顔を指す」ということである。
現役当時は顔も指さないのに、いざ辞めて社会復帰した時に何故か顔が指してしまい、社会復帰もままならぬ・・という芸人さんも多かったようだ。





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