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萩原芳樹のブログ
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京橋花月3月公演「お茶子のブル-ス」は、昭和44年の物語ですが、
今日は昭和48年のお話をします。

昭和48年の新年を迎えて、楽屋や吉本本社では「上方漫才大賞」の話題がよく出て来ます。
というのも、2月に審査会があり、そこで「漫才大賞」「奨励賞」「新人賞」が決定するのです。

当時漫才の賞は、ラジオ大阪主催の「上方漫才大賞」と、「NHK新人賞」の二つしかありませんでした。

迎えて第8回のその年、新人賞候補としてみんなが予想していたのは、
「海原千里万里」
「北京一京二」
「若井チックヤング」
それにデビュ-してまだ一年満たない我々B&Bでした。

「オマエ等、何としてでも新人賞取れるよう劇場の漫才ガンバレよ!」
吉本のマネ-ジャ-さんに渇を入れられました。
審査基準は、1月2月あたりに審査員がこっそりと劇場の漫才を見て、その出来によって「誰を新人賞として票
を入れるか」決められるとのことです。
前年は松竹芸能の方が新人賞を受賞されているので、吉本としては「何が何でも今年こそ吉本や!」と、
意気込みも凄かったです。

我々は新ネタを作り、新しい漫才パタ-ンで、劇場でも大爆笑を取れるようになっていました。(また卑怯な反則のような漫才でしたが)
そんな時、「今トップホットに出てる寛太寛大いうコンビ、えらいウケてるそうやで」
そんなことを耳にしたので、早速こっそりと偵察に。

当時、関西の寄席小屋といえば、吉本の「なんば花月」「うめだ花月」「京都花月」
そして、松竹の「道頓堀角座」「神戸松竹座」「新世界花月」と、
吉本にも松竹にも所属しない芸人さん達が出ている「トップホットシアタ-」という劇場がありました。
看板は、「いとしこいし」「はんじけんじ」「お浜小浜」「横山ホットプラザ-ズ」という面々。
そこに寛太寛大さんが若手として出ておられたのです。

そっと客席後方で見ていた私は、ド肝を抜かれる程の衝撃を受けました。
どんな漫才だったかと申しますと・・・
「僕最近、シンガ-ソングライタ-に刺激されて自分で曲を作ってな」
「どんな歌やねんな、聞かせて」
「素人が作った曲やから、今ヒットしてる和田アキ子の『笑って許して』に似てるんや」
「まぁええがな、聞かせて。曲のタイトルは?」
「ちょっと待ってネ・・・言うんやけどな」
「何かええ感じやんか。聞かせて」
「ほな、歌うで・・・」
と、寛大さんがアカペラで、やおら歌い始めます。
「♪ちよっと待ってネ・・・・・・♪笑って許して・・・・・♪ちょっと待ってネ・・・・・♪笑って許して・・・・・♪ちょっと待ってネ・・・・・♪笑って許して・・・・・♪ちょっと待ってネ・・・」
ずっとこのフレ-ズの繰り返し。
最初は突っ込もうとしていた相方の寛太さんですが、アホらしくなって、傍であきれて見ているだけ。
寛大さんは、遠いところを見つめたまま、同じフレ-ズをずっと続けます。
それがなんと15分間も続いてしまうのです。
最初はクスクス笑いから始まったのですが、笑いはどんどん倍増し、最後には大爆笑。
全く意味不明なのですが、お二人の不条理な空気が劇場を包み込み、私もついつい笑い転げてしまいました。

トップホットの小屋を後にした私は思いました。「あんな人と勝負できん。我々は完全に負けや」と。
私はそれから間もなく白旗を上げるように、新人賞審査会目前に失踪して東京に行ってしまったのです。

結局この年の新人賞は、寛太寛大さんが受賞されました。
ずっとお二人の漫才が大好きでした・・・しかし、寛太さんが他界され、もう拝見することはできません。残念です。

寛太寛大さんが、何故そんな凄い漫才の腕を持っておられるのか、私はつい最近その謎を知りました。
ABCの深夜番組「なんば壱番館」の後番組「にこいち」という番組で、私は寛太寛大さんに取材をして始めてわかったのです。
それは・・・また次にお話しましょう。


 

 

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