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萩原芳樹のブログ
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キャバレ-歌手の「愛川ネネ」が、失踪した「柳流亭らん子」の代演を勤めることになって三日目になった。

失踪した「らん子」からは今だに何の連絡もない。
「どうせ、どっかの男に狂うてしもうただけのことやろ。今更始まったことでもないわ」
らん子の行方を心配するネネに向かって、ぴん子が冷たく言い放った。
どうやら、らん子の今回の行動には前科もあるようである。
「芸人が舞台をすっぽかして男に夢中になるやなんて最低のことや」
「けど、好きになった人ができたら女としては仕方ないのと違いますか?」
ネネが、そう言い終わらないうちに、ぴん子は強く否定した。
「女芸人はな、女である前に芸人なんや」
「そんなもんなんですか・・・」
ぴん子の勢いに黙るしかないネネ。

昭和のこの時代、寄席芸人が突然失踪をして舞台に穴の空くことがしばしばあった。
その失踪の原因は、ほとんどが3つに絞られると言って良い。
まずは、今回の「らん子」の失踪原因として予想される「異性の問題」
続いては「借金」
借金取りに追われて逃げるというケ-スもあった。
そして、もう一つは「相方のイジメ」である。
漫才コンビが売れないことを全て相方のせいにしてしまうという人間性のない人とコンビを組んでしまったら、こうなる運命となる。

この3つ失踪の理由。よくよく考えれば芸能界だけに限ったことでもないような気もするが。

とにかく失踪してしまった「こまどり娘」のリ-ダ-である「らん子」からは何の連絡もなし。
「それにしても、いつまでやってもらおう」
キャバレ-歌手のステ-ジも休んで代演をしてくれているネネに対して、心配した「ぽん子」が切り出した。
寄席の舞台は昼夜興行であり、この3日間ネネはキャバレ-を休んで寄席に出演していたのである。

「それは・・・この人の気持ちしだいやな」
「私の気持ちしだい?」
ぴん子の言葉に固まってしまうネネ。
正直ネネは、この三日間ただただ夢中になって舞台に上がるだけで、何も今後のことなど考えてもいなかった。

「あんたさえ良かったら、このまま二代目らん子を継いで正式メンバ-になってもらいたいと思うてる」
突然ぴん子から、そんなことを言われたネネの心境は実に複雑であった。

舞台に立って、お客さんに笑ってもらえたことの快感。
しかし、漫才師としては何の下積みもない自分。
でも、「自信がないから」と、断ってしまえば「こまどり娘」もやって行けなくなるし、またとないせっかくのチャンスである。

ネネは首を縦に振った。
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