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萩原芳樹のブログ
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ヘンリ-が笑楽座の楽屋に現れた。
らん子とは強気のセリフで別れたものの、また元の関係に戻したいという思いでやって来たのであった。

あきらめが悪い男というか、らん子(ネネ)と同棲している時は、らん子の財布から勝手に小遣いを抜き取ったりしていたので、貴重な「金ヅル」でもあったのだろう。

「珍しい。ヘンリ-やないか」
楽屋にいた「おまん」がヘンリ-を見つけると傍にすり寄って来た。
「あいつ・・今舞台ですか?」
「ああ、こまどりならちょうど舞台や。ところでヘンリ-、二代目とかいうあの女、あんたが連れて来たらしいな」
「ハイ、キャバレ-で歌わせていたんですけど、すっかり芸人気取りしてしまいよって・・・」
「連れ戻したいのやな?」
ヘンリ-が罰悪そうに頷いた。

「ひょっとしてその手紙・・・」
ヘンリ-が手にしている手紙を、おまんは見逃さなかった。
「すんませんけど、ネネの奴、二代目にこの手紙を渡しといてもらえませんか」
「何や手紙やなんて。強引に連れて行ったらええやないか」
「それがかなわんもんで、こんな・・・」
「わかった。私がちゃんと渡しておいたる」
「ほな宜しゅうにお願いします」
手紙をおまんに手渡すと、ヘンリ-は楽屋から姿を消した。

ヘンリ-がいなくなったことを確認すると、おまんは早速手紙を開けて見た。
「今夜10時、ホテルパリ-で待ってる。ヘンリ-」
手紙は、ただそれだけしか書いてなかった。
二代目らん子様とか、ネネへ等という宛名のない手紙であった。
おまんは、ほくそ笑んで天井を見上げた。
ある悪巧みが浮かんだのである。

こまどり娘が舞台から降りて来た。
「ぼん子、あんたに渡してほしいて、こんな手紙頼まれてる」
と、ぽん子にヘンリ-からの手紙を渡してしまう。

普通なら「この手紙ヘンリ-からて、二代目、あんたへの間違いやろう」と言うところだが、ぽん子は違った。
「ヘンリ-は二代目と別れて寂しくなり、この私に迫ろうとしている」
と、勝手に勘違いしてしまったのである。

「誰からの手紙や?」
ぴん子がさりげなく聞くが、ぽん子は顔を赤らめてニタニタしている。
「春が私にも来たわさ」
おまんは「しめしめ」という表情で去って行った。

ヘンリ-はキャバレ-のギタ-弾きをする以前は、「スカタンボ-イズ」というコミックバンドのメンバ-であった。
なので勿論ぽん子やぴん子とも以前からの知り合いである。
実はぽん子はその時代から密かにヘンリ-に片思いをしていたのであった。

ぽん子は田舎から大阪に集団就職で出て来て、女工から芸人になった女。
未だに男性経験はなかった。
ちゃんとした異性との交際経験もなし。
丸々と太ったデブの上、顔も「笑わせる為に生まれて来た」ような風貌である。
笑楽座の楽屋では、「おい!ブサイク」等と呼ばれて男性芸人は誰も手をつけようとはしなかった。

そんなぽん子であるから、突然の手紙に驚いたことは当たり前。
この手紙がキッカケで、こまどり娘は大ピンチとなるのであった。



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