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萩原芳樹のブログ
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そっと店の様子を覗きに行くと・・・
店はテ-ブル席が5~6あり、10人程度座れるカウンタ-が。
そのカウンタ-の隅に、マネ-ジャ-と、私を案内してくれた50歳位の女性。そして、もう一人もっと年配の女性(ママさんらしいのですが)の3人が、ほうづえをついて力なく座っていました。

「あのぉショ-タイムは?」と、聞くと、
「まだ一人も、お客さんが来ないんです」と、泣きそうな顔のママ。
「すみませんねぇ。まぁ水割りでも一杯いかがですか?」と、ママの言葉に甘えて、カウンタ-で水割りをいただくことに。

マネ-ジャ-が私の傍に来て、小声で、
「ビックリされたでしょう?実は私、一週間前まで新宿の歌舞伎町で働いていて、ここにスカウトされて来たのですが、話と違うので驚いてるんです」と。

「で、連日こんな感じですか?」と、こちらも小声で聞くと、
「昨日までは、まだまぁまぁでしたけどね」
(まだまぁまぁって、いったい何人の客だったんだろう・・・と、思いましたが、失礼なので聞けません)

確かに田園地帯のド真ん中で、NO1ホステスが50歳位の目つきの鋭い陰気な女性。飲みに来る客に目的を聞いてみたくもなります。
でも、「ショ-をやってる」が売りなのでしょうか。

「このままそっと、ずらかってしまおうか」という気にもなりました。
「すみません、時刻表ありますか?」と、時刻表を見せてもらうと、すでに最終列車はなくなってました。
「あきらめるしかないか」と、思っていると、
「ママ、僕も水割り一杯もらっていいですか?」と、マネ-ジャ-。
「どうぞ」と、ママが水割りを作ると、
「水割り一杯いくらでしたっけ?」と、マネ-ジャ-は、ポケットから小銭を出してママに支払ったのです。
「?・・・あの、僕も水割り代を」私も払おうとしたのですが、
「タレントさんから、お金をいただく訳では行きません」と。

何だかパツ悪くなり、また楽屋と称するロッカ-ル-ムに戻って、待機することにしました。
そして、ショ-タイムの声がかかるのを待ち続けました。

12時を過ぎても、マネ-ジャ-は呼びに来ず。
「結局、客は一人も来なかったということか・・・」と、私は押し入れから湿った布団を出し、ふて寝気味に寝ようとしていました。
すると・・・

ロッカ-ル-ムを激しく叩く音があり、
「団五郎さん!ショ-タイムです!スタンバイ、お願いします!」と、超ハリキリ声で、マネ-ジャ-が。
「私が司会で紹介しますので、紹介されたら店の扉を開けて入って来てください」と。

急いで支度をしました。
フリルのシャツに蝶ネクタイ、タキシ-ドの衣装に着替えを。
2階の店の扉の前まで行くと、マネ-ジャ-の声が聞こえて来ました。
「本日のショ-タイムは、団五郎さんによるボ-ドビルショ-で、お楽しみいただきます。では、団五郎さん、どうぞ!」
その声を聞いて、店の扉を開けると、店はガラ~ン。
カウンタ-で飲んでいる客が二人だけ。
作業服に足もとは地下足袋姿の二人づれでした。

私がステ-ジに上がって、まずは挨拶をすると、何の反応もなし。
ちょうどステ-ジは、カウンタ-で飲んでいる客の背中越しにありました。
二人の客は、NO1ホステスを相手に機嫌よくベラベラ喋っていました。
いわば、誰も見ていない状態でしたが、漫談を続けるしかありません。
すると、突然客の一人が、振り向いて、
「さっきから、ペラペラしゃべってうるせぇんだよ!静かにしろよ!」
怒られてしまいました。
仕方なく私は、無言でステ-ジに直立したまま。

ママが口をはさんでくれました。
「うるさいって、ショ-やってるんですから」と。
客「ショ-?今日はストリップじゃなかったの?」
どうやら、その客は以前ここでストリップショ-を見て、そのストリップをまた見られると思って来たようです。

私も芸人、こう返しました。
「じゃあ、私が今からストリップやります」と。
「見たかねぇよ!バカ!」と、早速お叱りの声が。
すると、もう一人の客が「歌唄えよ」と。

「あのぉバンドもいないし、カラオケもないですが」と、私が返すと、
「そんなもの、なくても唄えるだろうが!」と。

「承知しました。では唄わせていただきます。平浩二のナンバ-で、バスストップ」
私がアカペラで唄い始めると、
「そんな歌聞きたかねぇや!○○音頭やれ!」
と、聞いたこともない曲をリクエストされました。

「あのぉ、その歌知らないんですが」と、返すと、
「俺、よく知ってるから、俺が唄う」と、ステ-ジへ。
私はマイクを、その客に渡して、隣りで手拍子するしかありません。

一番が終わると、「二番よく覚えてねぇな」と、その客。
すると、もう一人の客が「俺、二番も知ってる」と、その客もステ-ジに上がって来て、歌い始めたのです。

全くおかしなショ-タイムとなりました。
二人しかいない客が、二人とも舞台で歌っている。
私はいったいどうすれば良いのか・・・「そうだ、私が客になれば良いのだ!」と思い、私がカウンタ-に座って、手拍子しながら「ええぞ!最高!」と、声援を送りました。
客のビ-ルも勝手に飲み、つまみも勝手に食べました。

私の拍手に、二人の客はご満悦。
「アンコ-ル!」と、私が叫ぶと、次から次へと、歌い続けたのです。

ママを始め、店の人達はカウンタ-の中で、もはや何もできず頭を抱えていました。

そんなことが30分程続いたでしょうか。
二人の客は、私の拍手にノリノリ。
私は、客の酒とつまみですっかり良い気分に。

ママが私の傍に来て、泣くような顔で、こう言いました。
「すみませんが、もうやめてもらえないでしょうか」と。
「わかりました」と、ステ-ジに上がり、二人の客からマイクを取り上げた私は、締めにこう挨拶。
「どうも、ご声援有り難うございました。あれ?声援してたんは私やっか。失礼!」

ステ-ジを終えて、また楽屋と称するロッカ-ル-ムで、今度こそ本当に「ふて寝」を決め込みました。

散々だったショ-タイム・・・しかし。この後、まだ驚くへきことが待ち受けていたのです。


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